蛇ノ目の記

技術のことも。そうでないことも。

地下アイドル間の関連性をネットワークとして分析したり楽曲派を可視化したりしてみた話

地下アイドルアドベントカレンダー 12/16の記事です。メリークリスマス。

12/16の記事です。

12/16の(

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前回の更新から8ヶ月以上が経ってしまった。更新をサボっている間に名古屋に行ったり、大阪に行ったり、福島に行ったり、名古屋に行ったり、大阪に行ったり、名古屋に行ったり、名古屋に行ったり、大阪に行ったり、名古屋に行ったりしていた。さて今年は何回名古屋に遠征したでしょうか。名古屋は近所わかる。

アイドル現場まとめは、"その月に行った現場のまとめ"に留めないと持続可能性が低いと痛感。感想などを細かく書いていくとコストが大きくなりすぎてしまう。来年からはもっと簡素にまとめたい。

それでは本題始まります。

概要

Spotify Web APIを用いて「関連アーティスト(アプリ上では"ファンの間で人気"と表示される)」を取得し、地下アイドルの関連アーティストネットワーク(以下、地下アイドルネットワーク)を構築した。

地下アイドルネットワークの特徴量を求め、地下アイドルネットワークの特性を分析する。また、いわゆる"楽曲派"と呼ばれるアイドルグループ群をクラスタリングによって求める試みを行う。

地下アイドルネットワークの構築

地下アイドルネットワークは、地下アイドル(alt-idol)と分類されたアーティスト群をノード、アーティスト同士の関連をエッジとする有向グラフである。 アーティスト同士の関連とは、Spotifyユーザの履歴から分析されたデータで、Spotify Web APIを通じて取得できる。 例えば、nuanceのファンの履歴にyumegiwa last girlが多く含まれ、関連アーティストとして扱われているとき、nuanceからyumegiwa last girlへとエッジが張られる。

Spotify Web APIGET searchを用いて、ジャンルがalt-idol(=地下アイドル)のアーティストを検索して153アーティストを得た。以下、この153アーティストを地下アイドル群と呼ぶ。地下アイドル群の詳細は以下のGistを参照。

Spotify Web APIで取得した地下アイドル(alt-idol)の一覧 · GitHub

GET /artist/{id}/related-artistsによって、地下アイドル群に含まれる各アーティストの関連アーティストを取得。関連アーティストの中から、地下アイドル群との関連のみを抽出することで、地下アイドルグループ間に絞った関連アーティストのネットワークを構成した。この過程で地下アイドル群内に関連アーティストを持たないグループが除外され、ノード数は151となっている。

なお、関連アーティストは最大20件のため、1ノードから他のノードへ向かうエッジ(出次数)の最大値は20となる。

地下アイドルネットワークの構成

ノード数 エッジ数
151 2032

任意のノード間を結ぶ最短経路の平均値は2.49となっており、平均的2.49個のグループを介して繋がっていることになる。

地下アイドルネットワークの詳細は以下のGistを参照。

地下アイドルネットワーク · GitHub

この処理によって得られた地下アイドルネットワークを可視化したネットワーク図は以下。

f:id:Nao_Y:20211223011949p:plain

可視化にはCytoscapeを使用し、他のノードからのリンク数(入次数)に応じてサイズを変更した。 また、レイアウトアルゴリズムにはEdge-weighted Spring-Embedded Layoutを用いている。

地下アイドルネットワークの特徴

今回はネットワークの指標として次数中心性を用いて地下アイドルネットワークの特徴を見てみる。 次数中心性はグラフ/ネットワーク関連の計算を行うPythonパッケージNetworkXによって算出した。

次数中心性

まずは、ノードの入次数によってそのネットワーク内での中心性を測る次数中心性を求めた。

[次数中心性の上位10グループ]
Ringwanderung: 0.6733333333333333
Devil ANTHEM.: 0.56
situasion: 0.46
MIGMA SHELTER: 0.4466666666666667
ピューパ!!: 0.44
NELN: 0.43333333333333335
Kolokol: 0.4133333333333334
nuance: 0.4
NEO JAPONISM: 0.39333333333333337
Yanakoto Sotto Mute: 0.38

地下アイドルネットワーク内での次数は以下。

グループ名 入次数 出次数
Ringwanderung 86 15
Devil ANTHEM. 68 16
situasion 54 15
MIGMA SHELTER 52 15
ピューパ!! 48 18
NELN 48 17
Kolokol 45 17
nuance 45 15
NEO JAPONISM 42 17
Yanakoto Sotto Mute 39 18

オタク目線での考察

次数中心性の上位では、Ringwanderungやsituasion、MIGMA SHELTER、NELN、nuanceといった楽曲派アイドルの対バンイベント「エクストロメ」で共演するグループが目立つように見える(感覚的ではあるが、上記4グループはエクストロメ常連グループといえる)。

試しに上位11~20のグループを見てみると、tipToe.やyumegiwa last girl、POMERO、NightOwlとやはりエクストロメで見る面々が現れているのが興味深い。また、2021年初頭に静岡県でデビューし、破竹の勢いで楽曲派界隈のオタクからの注目を集めているfishbowlが入っているあたり、地下アイドルシーンにおける存在感の大きさが見て取れる。、

上位20グループ間の距離の平均値1.56、中央値は1となっており、次数中心性の高いグループ同士は比較的固まっていることがわかる。

[次数中心性の上位11~20のグループ]
Malcolm Mask McLaren: 0.37333333333333335
クマリデパート: 0.36000000000000004
終わらないで、夜: 0.35333333333333333
tipToe.: 0.3466666666666667
グデイ: 0.3466666666666667
fishbowl: 0.32666666666666666
yumegiwa last girl: 0.32
Payrin's: 0.3066666666666667
POMERO: 0.3066666666666667
NightOwl: 0.30000000000000004

なお、次数中心性の下位10グループは以下のようになっている。

Kaede: 0.013333333333333334
シバノソウ: 0.02
BYOB: 0.02
ano: 0.04
Higeki no heroine syndrome: 0.04666666666666667
Shihatsu-machi Underground: 0.04666666666666667
豆柴の大群: 0.05333333333333334
悲撃のヒロイン症候群: 0.05333333333333334
メイビーME: 0.05333333333333334
CARRY LOOSE: 0.060000000000000005

地下アイドルネットワーク内での次数は以下。

グループ名 入次数 出次数
Kaede 0 2
BYOB 0 3
ano 0 6
Higeki no heroine syndrome 1 6
Shihatsu-machi Underground 0 7
豆柴の大群 2 6
悲撃のヒロイン症候群 3 5
メイビーME 1 7
CARRY LOOSE 4 5

地下アイドルネットワーク内での次数中心性が低い背景としては、地下アイドル(alt-idol)よりも他ジャンル(地上アイドルやバンドなど)との関連が多いことが考えられる。 地下アイドルとその他ジャンルの橋と言うこともできるかもしれない。

蛇足だが、レーベル変更などの事情によって同一グループでも別アーティストとして扱われることがあり、名寄せしてほしいと思ってしまう。

ここで以下の仮説を検証するため、拡張した地下アイドルネットワークを導入する。このネットワークでは、初期に得た地下アイドル群の関連アーティスト(1次関連アーティストと呼ぶ)のさらに関連アーティスト(2次関連アーティストと呼ぶ)を取得し、地下アイドル群 + 関連アーティストへの関連および2次関連アーティスト同士の関連を抽出している。また、地下アイドルはノードの形状を円、他ジャンル及びジャンル未登録はノードの形状を三角形として可視化した。

  1. 地下アイドルネットワークにおいて次数中心性の高いグループは地下アイドル(alt-idol)同士の密な繋がりを持っている
  2. 地下アイドルネットワークにおいて次数中心性の低いグループはその他ジャンルとの繋がりを多く持っている

次数中心性が最も高いRingwanderungの関連アーティストを見てみる。 20の関連アーティストのすべてが地下アイドルであった。 f:id:Nao_Y:20211224014640p:plain

次数中心性の上位10グループの中間に位置するピューパ!!についても、20の関連アーティストのすべてが地下アイドルであった。 f:id:Nao_Y:20211224021830p:plain

次に、次数中心性が最も低いKaedeの関連アーティストを見てみる。 20の関連アーティストのうち、他ジャンルに属すアーティストは18であった。 f:id:Nao_Y:20211224013813p:plain

次数中心性の下位10グループの中間に位置する豆柴の大群の関連アーティストも見てみる。 20の関連アーティストのうち、他ジャンルに属すアーティストは15であった。 f:id:Nao_Y:20211224020052p:plain 期せずしてWACKクラスタを見つけた気持ちになった。豆柴の大群はWACK所属なのでそれはそう。

次数中心性の上位、下位それぞれ2例を見てみただけだが、おおよそ仮説1, 2ともに正しいといえそうである。 (他ジャンルの関連アーティストが増えれば、地下アイドルネットワーク内での次数中心性が低下することは自明といえば自明か……)

地下アイドルネットワークのコミュニティ分割

networkxに用意されたクラスタリングアルゴリズムを用いて、地下アイドルネットワークのコミュニティ分割を試みる。今回は、コミュニティ分割の精度を測るモジュラリティの向上に最適化されたgreedy_modularity_communitiesを利用した。

なお、クラスタリングに関しては以下のスライドの説明がわかりやすい。

Newman アルゴリズムによるソーシャルグラフのクラスタリング

今回のクラスタリングによって地下アイドルネットワークは4つのコミュニティに分割された。その際のモジュラリティはおよそ0.424である。モジュラリティは1に近づくほど、精度が高いことを示す。

(まずまずな精度なんじゃないかと思う)

ノードの色分けによってコミュニティを可視化した図が以下。 f:id:Nao_Y:20211224031112p:plain

これを読み解くためにはドルオタとしてのコンテキストが必要不可欠になってしまうわけだが、大雑把に解説するとCommunity1, 2, 4がいわゆる楽曲派アイドル。Community3が王道アイドル的な雰囲気・楽曲の多いグループのコミュニティと見ることができる。

ちなみに次数中心性の際に述べた楽曲派アイドルの対バンイベント「エクストロメ」の出演陣はおよそCommunity1に集中している。ついでに言うと自分の守備範囲の多くがcommunity1に属しているので、完全な楽曲派オタクでしたありがとうございます。

まとめ

次数中心性を軸に地下アイドルネットワークの特性を分析したことで、楽曲派アイドルと呼ばれるグループはジャンルとしての地下アイドル(alt-idol)によって密に繋がり合っていることが見て取れた。これは地下アイドル以外のジャンルとの接点が少ないと見ることもできる。より広いオタク層への訴求していく際には、他ジャンル(地上アイドルやバンド)との関連を持つグループを入れた対バンを組むことが有効になるかもしれない(と考えたがこれってTIFやアットジャムだよね)。

コミュニティ分割を試みたことで、これまで"楽曲派"と呼んでいたグループが分布する範囲を可視化することができた。コミュニティ分割結果は地下アイドルシーンを俯瞰する地図としてての役割を担うことができそうである。

最後に

締め切りをぶっちぎったとはいえこの短期間で行うには深いテーマだった。学部生の卒業研究レベルの時間をかけて取り組むことができれば、地下アイドルシーンの分析として形になるかもしれない。

音楽プラットフォームやSNSの観点からの地下アイドルシーンの分析って情報社会科学(Twiterの分析で有名な鳥海先生が第一人者の分野)の範疇に入らないですかね?知らんけど。

あと、対バンの相手の選定とかに役立ちそうなので地下アイドル運営に一枚噛みたい野望が生まれた。よろしくお願いします。