蛇ノ目の記

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攻殻機動隊SAC_2045を観たら攻殻SACも観てくれ!という話 - 9課メンバーごとのおすすめエピソード紹介

4/26からNetfilxにて攻殻機動隊SAC_2045が配信されている。広報にがっつり力が入った話題作なので、攻殻機動隊ファンならずとも知っている人は多いだろうし、もう観たという人も少なくないと思う。

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今回は、SAC_2045から攻殻SACを観始めた人たちに向けて、過去作『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』(SAC)と『攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG』(2ndGIG)のおすすめエピソードを紹介する、というお節介な老人じみた話をしていく。

自分の攻殻SACファン歴はおよそ15年ほどの立派なSAC老人会である。きっかけは中学1年の頃の同級生のサブカル女子で、話したことはほとんどなかったがサブカルに詳しそうなこの人が言うなら面白いんだろ、と思いレンタルDVDで観始めた。

SAC_2045のレビューについてはnoteなんかで「SAC_2045」と検索すれば色々な人が書いたしっかりしたレビューを読めるのでそっちを読んでね。

今回のあらすじ

詳しくは後述するがSAC, 2ndGIGともに本筋エピソードと一話完結エピソードがある。今回は一話完結エピソードのうち、特に公安9課メンバーに焦点を当てたものを紹介する。

大型連休中なので勢いでそれぞれ丸ごと観るという向きについては大いに歓迎します。攻殻SACはいいぞ。

攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX is 何

SAC_2045から観始めた人が対象なのでまずは原点を振り返らないと。

攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』(SAC)は2002年から2003年に掛けてペイパービュー形式で放送されていた、神山健治監督による攻殻機動隊の(当時の)新作。それまで攻殻機動隊といえば、士郎正宗氏の原作コミックと押井守監督による『Ghost in the Shell/攻殻機動隊』があった。それぞれ欄外の書き込みの情報量がすごかったり、哲学的だったりで新規の人は近寄りがたい雰囲気があったかもしれない。SACは「近未来SF + 刑事モノ + ポリティカルサスペンス」というようなフォーマットで極めて観やすい雰囲気になっているのが特徴。

SACの主軸は攻殻世界の日本における最大規模の企業テロ「笑い男事件」の背後にある陰謀を巡る捜査に置かれている。事件の首謀者とされる天才ハッカー笑い男」、事件にまつわる警察官僚や政治家の陰謀とまさに「近未来SF + 刑事モノ + ポリティカルサスペンス」なシナリオが展開される。

そんな攻殻SACはNetflixで配信中。

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これは豆知識なのだけど、各話タイトルの背景が青色であれば「笑い男事件関連エピソード」、緑色であれば「一話完結」となっている。

攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG is 何

攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG』(2ndGIG)は2004年から2005年に掛けてペイパービュー形式で放送されていた攻殻SACの続編。監督は攻殻SACと同じ神山健治監督だが、ストーリーコンセプトに押井守監督が参加している。2ndGIGの主軸はテロリスト集団「個別の11人」と攻殻世界の日本に多くいる大陸からの難民による武装蜂起を促す陰謀との戦いに置かれている。攻殻SACでは公安9課がいい感じに勝利を収めたのに対し「公安9課の弱点をつく」というコンセプトでシナリオが展開される。また「公安9課を戦争というシチュエーションに投げ込む」という(如何にも押井守監督らしい)コンセプト(神山監督インタビューで聞いた気がする。要出典。)もあり、公安9課は苦戦を強いられることになる。

そんな攻殻SAC 2ndGIGもNetflixで配信中。

攻殻SACと同様にエピソードの種類によって各話タイトルの背景が異なる。白色であれば「個別の11人関連エピソード」、黒色であれば「一話完結」となっている。

その他の攻殻SAC

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(SSS)もある。2006年公開のこの作品は2ndGIGの続編で、いわゆるOVA的な感じ。今回は紹介しないので詳しくは割愛。

Netfilxで配信中。2ndGIGまで観てから手を付けるのがおすすめ。

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SAC_2045で説明されてないことの補足

「2050 東京復興」という言葉が出てくる。何が起きているかというと、攻殻世界では第三次世界大戦が勃発し、その折に東京が核攻撃の標的となり首都圏が壊滅。そういう流れがあって「東京復興」という言葉が登場する。東京の様子は『潜在熱源 EXCAVATION』(2ndGIG ep.06)で見ることができる。

おすすめエピソード

ようやく本題。ここで紹介するものは基本的に本筋を追っていなくても楽しめるものだが一部、本筋のネタが絡むこともあるのでそれについては逐一補足する。

イシカワとボーマについては深堀りエピソードが無いので割愛。悲しい。

公安9課

『公安9課 SECTION-9』(SAC ep.01)

SACシリーズのすべての原点。

高級料亭で発生した芸者ガイノイド(※)による外務大臣拘束事件に端を発する、軍内部の機密文書を巡る事件。

料亭への突入、ガイノイドを操るハッカー逆探知。つまり「荒事と電脳戦」という公安9課の特徴を1話に詰め込んだエピソード。

事件後の現場でのトグサの閃き、機密文書の情報を入手し陰謀を未然に食い止める荒巻課長の政治的手腕も光る攻殻SACチュートリアル

「これが公安9課だよ」という荒巻課長の台詞がよき。

※ 女性型アンドロイドの呼称。アンドロイド(Android)のandroが男性を指すことから、区別する意味で使われる。

バトー

『密林航路にうってつけの日 JUNGLE CRUISE』(SAC ep.10)

新浜市内で起きた連続猟奇殺人事件を追うバトーとトグサ。捜査線に浮かんだのは特殊作戦に従事していた元米軍の男。

バトーは陸自特殊部隊に身を置いていたとき、その作戦の残虐性を目にしていた。そんなヤバい作戦なんて逆効果じゃね?っていう安っぽいツッコミは置いておいて、かつて止められなかった狂気を止めるために犯人を追うバトーが熱い。

「ここは奴のジャングルじゃない。俺達の街だ。そして俺は、警察官だからな。」

CIAの二人(サトウ・スズキとワタナベ・タナカ)の存在感も見逃せない。小物感みなぎるSAC_2045のNSAの彼はこいつらの小賢しさを見習って(

『心の隙間 Ag2O』(SAC ep.16)

海上自衛軍における情報漏洩の捜査のために内偵をしていたバトーは、訓練教官として働く元パラリンピックボクシング銀メダリストと出会う。バトーは往年の姿を応援していたその男と捜査の中で交流していく。男と男の哀愁漂うエピソードでサブタイトルが酸化銀を意味するAg2O。察して……(語彙力

感情の読めない「眠らない眼」のバトーの心の内側が見えすぎて泣ける、そんなエピソード。

豆知識なんですが、攻殻世界では義体メーカーのプロモーションの側面もあってパラリンピックが注目されているらしい。高出力義体による競技、生身の人間のそれよりも派手そうで、一度観てみたい。

トグサ

トグサが関わるエピソードは本筋に絡むものが割と多い。そしてだいたいひどい目に遭う。本庁時代の同僚を亡くしたり、撃たれたり、ニートになったり。SAC_2045では離婚してるしね。なんでやトグサなんにも悪いことしてないやろ。

あまり本筋と絡んでいないものを紹介。

イカレルオトコ TRIAL』(2ndGIG ep.10)

非番中のトグサは偶然出くわした暴行事件を止めるべく、犯人の義体を撃ち行動不能にする。しかし、弁護士の策略によって裁判へと引きずり出されてしまう。9課は弁護士の背後関係を洗い出し、9課を陥れたい内閣情報庁の思惑を突き止め、トグサを救い出そうとする。多くの場面が法廷で進む異色のエピソード。トグサの(青臭い)正義感が光る一話。

補足: 2ndGIGでは内閣情報庁という組織が9課のカウンターパートとして登場する。この組織のゴーダという男がだいたい悪い。

どうでもいいけどあんなに意味深なお天気キャスターの台詞は聞いたことがない。櫻井圭記氏(脚本)、思わせぶりすぎでしょ。

サイトー

『左眼に気をつけろ POKER FACE』(2ndGIG ep.14)

待機中にポーカーに興じるサイトーたち。サイトーはその様子を見ているタチコマたちが違和感を持つほどに勝ち続ける。曰く「俺がやってきた命の駆け引きに比べたら、ポーカーなんて餓鬼の遊びだ。」サイトーはプレイヤー全員のレイズを条件に、過去に体験した「命の駆け引き」を語り始める。すべてを語り終えたあとのサイトーの手札は…。

SAC_2045でも名狙撃手として活躍するサイトーが、少佐につくきっかけとなった戦いについて話すエピソード。イシカワと新人扱いされる若かりし頃のバトーも登場。

パズ

『顔 MAKE UP』(2ndGIG ep.13)

SAC_2045ではあまりにモブと化しているので、ご新規さんはパズを知らない可能性まである。目が細くて一番ガラが悪そうな彼です。

「個別の11人」のキーパーソンであるクゼという男を追っていた9課は彼の義体の顔を作った造顔作家に行き着く。しかし、その造顔作家は何者かに殺害される。現場周辺の監視カメラに写っていたのはパズの顔をした人間だった。事件の背後にいる人物に心当たりのあるパズは単独で捜査を始める。

パズの男前さとチャラさがよくわかるエピソード。

タチコマ

タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM』(SAC ep.12)

この話数は2部構成になっていて、前半がタチコマに焦点を当てたエピソード。ちなみに後半は、タチコマが拾ってきた電脳に繋がった少佐が不思議な映画館に迷い込むスコシフシギ的なエピソードです。

タチコマたちが寝静まる中、一体のタチコマが目を覚ます。街に出掛けたタチコマは飼い犬を探す女の子と出会い、一緒に飼い犬探しを始める。タチコマと女の子の心温まる交流の話。全世界のタチコマ萌え勢は必見のエピソード。

小ネタなんですが、女の子が読んでいたという「秘密の金魚」という物語は、サリンジャーライ麦畑でつかまえて」に登場するらしい。サリンジャーはSACに深く関わってくる作家で「ライ麦畑でつかまえて」がSAC的には重要。ちなみに「笑い男」は「ナイン・ストーリーズ」という短編集に収録されている短編で、バトー枠で紹介した「密林航路にうってつけの日」も「バナナフィッシュにうってつけの日」という短編の捩りらしいっすよ(オタク特有の早口

荒巻課長

『未完成ラブロマンスの真相 ANGELS' SHARE』(SAC ep.17)

国際テロ対策協議のため、英国を訪れる荒巻課長と少佐。荒巻課長は旧知の女性が勤めるワインファンドへ向かうが、そこで強盗に遭遇してしまう。互いに連絡が取れない荒巻課長と少佐は、互いの行動を予測して危機を脱する策を練る。

普段は9課の司令塔として手腕を振るう荒巻課長が(突発的に)現場で活躍する珍しいエピソード。荒巻課長にはSACの中で「我々の間にはチームプレイ等と言う都合のよい言い訳は存在せん。あるとすれば、スタンドプレーから生じるチームワークだけだ。」(SAC ep05)という名言があるが、この話数における荒巻課長と少佐の連携はまさにそれ。

荒巻課長とワインファンドの彼女はどういう関係だったんですかねー。

少佐

少佐は実質的に主人公なので、どれか一つのエピソードを選ぶのは少し難しい。あえて言うならば 『草迷宮 affection』(2ndGIG ep.11)が挙げられる。この話数は少佐が全身義体になった原因に踏み込む重要なエピソード。ただしクゼとの関連が大きいエピソードなので、2ndGIGを順に見ていって『草迷宮』にたどり着くのが望ましい。雰囲気としてはScience-FictionとしてのSFというより、スコシフシギとしてのSFに近いものがある。また、この話数で流れる『i do』はエピソードの雰囲気と絶妙にマッチしているので必聴。

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攻殻SACはいいぞ

今回紹介した各キャラに焦点を当てたエピソード以外にも、魅力的な一話完結エピソードは多くある。例えば『暴走の証明 TESTATION』(SAC ep.02)は「平成14年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞」を受賞した実績のある名エピソードとなっている。一話完結エピソードの魅力は物語の背後にある攻殻世界の2030年の日本の様々な姿を見ることができる点にもある。例えば、『暴走の証明』では2020年現在とあまり変わらない住宅街が登場したりと、現実との地続き感を見て取れる。この「現実との地続き感」も攻殻SACの魅力といえる。

また、菅野よう子によるサウンドトラックはどれも耳に残る楽曲で、作品中でも効果的に使われている。

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もちろん本筋である「笑い男事件」「個別の11人事件」ともに完成度の高いシナリオで、一度観始めれば止まらなくなること請け合いである。大型連休は残り2日となったが、残りの休日を攻殻SACでStay Homeするのも大いにアリな選択肢といえる。